追憶の空間
- 3月19日
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古い建物に足を踏み入れたとき、なぜか心を惹かれることがあります。
長い年月を経たフローリング。しっかりと手間をかけて塗られた壁。差し込む光や、窓から見える風景。
そこには図面には描かれていない、その場所だけの記憶が積み重なっています。

一般的に、リフォームとは老朽化した部分を修繕し、元の状態、あるいはそれ以上の性能へと回復させることを指します。一方でリノベーションは、既存の使い方や仕組みを見直し、新しい価値や可能性を生み出す行為です。住宅であれば、間取りそのものを再構築することも含まれるでしょう。
しかし、私たちはリノベーションを単なる刷新とは考えていません。
新しい価値をつくるために必要なのは、それまで積み重ねられてきた時間との連続性を見つめることです。その土地や建物に根付いたバナキュラーな魅力を読み取り、そこに宿る物語を未来へと受け渡していくこと。そこで暮らしてきた人々の記憶や想いという「人のナラティブ」と、建物が刻んできた時間という「建物のナラティブ」を共存させることが大切だと考えています。

建物は多くのことを語りかけてくれます。
光の入りかたや風の抜けかた、素材の質感や経年変化によって生まれた表情。私たちはそうした建物からのメッセージを素直に受け取りながら設計を進めます。
ときには使われなくなった建具や造作、ガラスの一部を新しい空間へ生け捕りのように移し替えることもあります。
また、かつての用途とは異なる役割を与え、素材を再解釈することもあります。

記憶を残すことは、過去に縛られることではありません。
その場所に刻まれた時間を受け継ぎながら、新しい暮らしや営みの舞台として再編集していくこと。それが私たちの考えるリノベーションであり、そこは「追憶の空間」になるということなのです。



